3Dプリンターでの造形が終わり、ワクワクしながら取り出した完成品。ところが、光にかざして側面をよく見てみると、規則正しい「横線」や、まるで年輪のような「波打ち模様」が…。「あれ?データは滑らかだったはずなのに?」と、がっかりした経験はありませんか?
真横から正面切って見れば目立たないこれらの縞模様も、斜めから見たり、角度を変えたりすると急に目立ち始めるのが特徴です。この見た目は3Dプリントの世界で「Zバンディング(Z-Banding)」または「Z-wobble(Z・ウォブル)」、「ウォバリング(Wobbling)」という名前で呼ばれている現象です。
この記事では、Z-Bandingが「なぜ起きるのか」から「どう直すか」までを全部わかりやすく解説します。
Z-Banding(Z-wobble)とは?
まずは、この現象がなぜ、どのようにして発生するのか、その正体を深く理解しましょう。
Z-Bandingの定義:Z軸の周期的なズレ
Z-Bandingは、「Z軸方向」の移動、すなわち造形物が下から上へと積み重なっていく動きが周期的に不安定になることです。FDM方式の3Dプリンターでは、Z軸はステッピングモーターが回転させる「リードスクリュー(ネジ棒)」によって制御されています。このリードスクリューが回転する際、何らかの異常があると、造形ヘッドやベッドが設定された高さよりもわずかに上や下にズレてしまうのです。
このズレは、リードスクリューの1回転や数回転といった機械的な動作サイクルに合わせて発生するため、結果として造形物の側面に、一定間隔で繰り返される波打ち模様、すなわち「縞」として現れます。この周期的な縞模様こそが、Zバンディングの最大の識別点となります。
発生箇所:主にZ軸のリードスクリューまわり
Zバンディングの原因は、ほぼ間違いなくZ軸の駆動システムにあります。リードスクリューの物理的な状態(曲がり、傾き)や、それを支えたり回したりする周辺部品(カプラー、モーター、ガイドレール、リニアレールなど)の取り付け精度が不完全だと、Z軸の動きが乱れてしまうのです。Z軸の動きは造形物の高さ方向の精度に直結するため、非常にシビアな調整が必要になります。
Z-Bandingと似た症状の見分け方
Zバンディングと間違えやすい不具合は、その周期性と発生箇所で区別できます。
- リングイング(ゴースティング): この現象は、Zバンディングとは違い、主に造形ヘッドやベッドが急加速・急減速する際の振動が原因で起こります。症状は、主にモデルの鋭い角を曲がった後や、文字の周囲など、XY軸の動作が急変した部分に、不規則な波紋のような影として現れます。縞の間隔は一定ではなく、Z軸の高さ方向とは直接関係がないため、容易に区別できます。
- 押出ムラ: フィラメントの吐出量が不安定になることが原因で、層の厚みが不規則に変化し、段差として見えることがあります。Zバンディングと異なり、横線や段差の間隔が不規則で周期性がないのが特徴です。ノズルの詰まり、ホットエンドの温度変動、フィラメント径のばらつきといったエクストルーダー系の問題が根本原因です。
目視チェックポイントと簡易テスト(自己診断)
実際に問題がZバンディングかどうかを判断するための、簡単なチェックをしてみましょう!
目視チェックポイント(周期性の確認)
最も重要なのは、横線が規則的な間隔で現れているか確認することです。定規を当てて、縞模様の間隔が常に一定であれば、リードスクリューの回転周期に由来するZバンディングの可能性が極めて高いです。また、下部よりも上部の方が縞が目立つ場合、スクリューの曲がりが原因でズレが「テコの原理」のように増幅されているサインと見なせます。
簡易テスト方法(自分でできる切り分け)
- Z軸の手動確認: プリンターの電源を切り、手でZ軸をゆっくり上下させて、引っかかりや抵抗がないかを確認します。Z軸ガイドの固着の有無を診断できます。
- スクリューの転がし確認: リードスクリューを外し、平らな机の上で転がします。波打つように転がるなら、スクリュー自体の曲がりが原因であると断定できます。
- カプラー・芯ズレの確認: モーターとスクリューを繋ぐカプラーを緩め、軸がまっすぐ一直線上に接続されているかを目視で確認します。
- ノズル温度変更テスト: 印刷温度を5℃変更してテストプリントを行います。もし縞模様の出方が変わるようであれば、押出ムラや温度変動がウォバリングに似た症状を引き起こしている可能性が高いです。
この診断テストによって、Zバンディングであると確定したら、次は根本原因を特定するステップに移ります。次章では、Zバンディングを引き起こす3つの主な要因を、「機械」「押出」「設定」の視点から詳しく解説していきます。
Z-Bandingの3つの主な原因
ウォバリング、あるいはZバンディングの最大の特徴は、造形物の側面に周期的な横縞が現れることです。この縞模様はモデル全体にわたって等しい間隔で発生し、その間隔はZ軸のリードスクリューのピッチ(ネジ山の間隔)によって決まります。この現象の根本原因は、ほぼ例外なくZ軸の機械的な問題にあり、具体的にはリードスクリューの曲がりや、モーターとスクリューを繋ぐカプラーの芯ズレなどです。
機械的要因(最優先でチェック)
Zバンディングの発生源として、最も高い確率で関係しているのがZ軸を構成する物理的な部品の不具合です。
- Zリードスクリューが曲がっている/傾いている: スクリュー自体が少しでも曲がっていると、回転するたびに遠心力や偏心力が働き、Z軸全体を一定周期で前後左右にわずかに押し引きしてしまいます。これが最も典型的なウォバリングの原因です。
- モータ軸とスクリュー軸の心が合っていない(芯ズレ): ステッピングモーターの軸と、リードスクリューの軸が一直線上にない状態です。この状態で回転させると、スクリューが大きく「暴れる」ことになり、層の位置を乱します。
- カップラーが偏心している/押し込み過ぎている: モーターとスクリューを繋ぐカプラー(ジョイント)の締め付けが不均一だったり、スクリューやモーターの軸を深く押し込みすぎて歪みを生じさせていることがあります。特に安価なフレキシブルカプラーは、この芯ズレを吸収しきれずに問題を悪化させる場合があります。
- Z軸ガイド(リニアシャフト/レール)の固定が歪んでいる: リードスクリューが回転を線形運動に変換する際に、ガイドレールやシャフトが歪んでいると、Z軸の動きが途中で引っかかったり、スムーズさを失ったりします。
- Z軸が片持ち構造でたわんでいる(例:Ender 3など): 特に普及価格帯のプリンターに多い構造ですが、Z軸を片側だけで支えていると、造形ヘッドやベッドの重量によって軸がたわみやすく、これがウォバリングやZ軸の非同期の原因になることがあります。
押出・エクストルーダー要因(Z軸以外もチェック)
押出(樹脂の吐出)が不安定になると、ウォバリングと似た段差や縞模様が出ることがあります。これはZ軸のズレではなく、「吐出量が層ごとに違う」ために生じる現象です。
- ノズルの詰まり・摩耗・汚れによる押出量ムラ: ノズル内部にコゲカスなどが溜まると、安定した量の樹脂が吐出されず、層の厚さにムラが出ます。
- フィラメント径のばらつき(安価フィラメントに多い): フィラメントの太さが途中で変わると、同じ押出量(Eステップ数)でも、実際にノズルから出る量が変わり、層の厚さが変わってしまいます。
- ホットエンド温度の変動: PIDチューニングが不十分な場合や、ファンからの風がノズルに干渉している場合、温度が安定せず樹脂の粘度が変わり、押出量ムラにつながります。
スライス・設定要因(盲点になりがち)
ソフトウェアの設定によって、ハードウェアのわずかなズレが増幅されている場合があります。
- レイヤー高さがリードスクリューのピッチと合わず、Z移動誤差が周期化している: これは最も技術的な原因です。Z軸リードスクリューの1回転の移動量と、スライサーで設定したレイヤー高さの相性が悪いと、Z軸のモーターが毎回「同じ場所でわずかなズレ」を生じさせ、それが周期的な縞模様を作り出してしまいます。
- ZリフトやZ-hopのたびにスクリューが押し戻される構造: ノズルが造形物を避けて上に持ち上がる「Z-hop」設定が頻繁すぎると、Z軸に繰り返し負荷がかかり、一時的なズレを引き起こすことがあります。
Z-Bandingの解決法
いよいよ解決策です。前述した原因の分類に基づき、「最も効果的で確実な改善策」から順に実行していきましょう。
機械的対策(物理的に!)
- リードスクリューを真っ直ぐなものに交換(最優先): 曲がりが確認されたら、迷わず新しいものに交換しましょう。純正品よりも精度の高い「TR8×8」などの規格のスクリューを選ぶことで、精度が飛躍的に向上することがあります。
- スクリュー上端を固定しない(フローティング構造)にする: これが多くのプリンターで効果的な秘策です。Z軸の上端にあるベアリングやブラケットの固定を外し、スクリューが自由に動ける状態(固定されていない状態)にします。これにより、スクリューのわずかな曲がりから生じる揺れを吸収し、Z軸に伝わりにくくします。
- Zモータブラケットの歪みを修正/金属製に交換: モーターの取り付け台座が樹脂製などで歪んでいる場合、それがZ軸の芯ズレの原因になります。これを金属製のものに交換したり、取り付けネジを均等に締め直したりすることで、軸の安定性が増します。
- Z軸のグリスアップ・清掃: リードスクリューやナット部分に異物やホコリが溜まると、Z軸の動きを阻害します。定期的に掃除し、テフロン系の専用グリスを薄く塗布して、摩擦抵抗を減らしましょう。
押出・ホットエンド対策(安定した樹脂の流れを作る)
- ホットエンドのPIDチューニングを実行: プリンターのファームウェア設定からPIDチューニングを実行し、ノズル温度の安定性を高めます。これにより、温度変動による樹脂粘度の変化と、それに伴う押出ムラを防ぐことができます。
- フィラメント径をノギスで測定し、スライサーで補正: フィラメント径が1.75mm±0.05mmなどと大きくばらついている場合、ノギスで測定した実測値をスライサーソフトに入力して押出量を補正しましょう。
スライサー設定対策(レイヤーの歩調を合わせる)
- レイヤー高さをリードスクリューのピッチと整数比に合わせる: これは「スライサー設定」でできる最も重要な対策です。あなたのプリンターのリードスクリュー(例:TR8×8で1回転8mm移動)を確認し、レイヤー高さをその移動量を割り切れる値に設定します。
- 例: 1回転で8mm移動するリードスクリューの場合、レイヤー高さを0.1mm, 0.2mm, 0.4mmなどに設定すると、モーターがスムーズに動作しやすく、周期的なズレが解消されやすくなります。
- Z-hopを必要最小限に: Z-hopが原因でZバンディングが生じている場合は、この機能をオフにするか、必要な高さ(例:0.1mm)まで下げてみましょう。
実践例:改善前後の変化
実際にZバンディング対策を行ったプリンターのBefore/Afterは、感動ものです。
| 調整前(Before) | 調整後(After) |
| 層ごとに横線がくっきりと出ており、照明を当てると全体が光を不規則に反射し、波打っているように見えます。 | 表面がまるで射出成形のように均一で滑らかになり、レイヤー境界の段差がほとんど目立たなくなります。 |
| 特に円筒形などのカーブした部分に、定期的な縞模様が顕著に出ています。 | 光沢のあるフィラメントを使用しても、ムラなく均一に光を反射し、美しい仕上がりになります。 |
成功事例の鍵となったパーツ
- TR8×8高精度リードスクリュー: そもそもの物理的な曲がりを排除。
- フローティング構造の導入: スクリューの揺れをZ軸全体に伝達するのを防止。
まとめ:Zバンディングを防ぐ考え方
Zバンディングを根本から解決するための考え方は非常にシンプルです。それは、「Z軸をいかにブレさせずに真っ直ぐ、安定して動かすか」に尽きます。
一時的な設定変更でごまかすのではなく、原因のほとんどを占める「機械的精度」と「Z軸アライメント」に焦点を当てることこそが、完全解決への最短ルートです。
Z-Banding解消のための3大原則
- 「真っすぐ回す」: リードスクリューの曲がりを物理的に排除する。
- 「芯を合わせる」: モーター軸とスクリュー軸の芯を完璧に合わせ、偏心させない。
- 「上端を固定しない」: スクリューのわずかな揺れをZ軸全体に「横揺れ」として伝達しない。
この記事の手順を上から順に、一つずつ丁寧に試していただければ、必ずZバンディングは改善します。自信を持って、滑らかで精度の高い造形を目指してください!
