3Dプリンターで印刷を始めたら、最初の層(一層目)がベッドからペロッと剥がれて失敗!
この「剥がれ」は、3Dプリンターユーザーみんなが経験する最大の悩みですよね。
実は、この失敗の原因は、調整の仕方が悪いのではなく、プリンターのベッド自体が少し歪んでいることにあるかもしれません。
この記事では、自動センサーのBLTouchと、高度な補正機能「Bed Mesh(ベッドメッシュ)」を使って、ベッドの歪みを補正し、初層をピタッと定着させる方法を、3ステップで徹底解説します!
⚠️ まず確認!
- この記事は、BLTouchとKlipperの導入が済んでいる方向けです。
- BLTouchの取り付けやKlipperでのZオフセット設定がまだの方は、先に基礎を固めましょう! 👉 【失敗しない!BLTouch導入ガイド:基礎知識からZオフセット調整まで徹底解説】
なぜ「Bed Mesh」が必要なのか?【剥がれの原因は高さにある】
手動で四隅を調整しても、Zオフセットを何度も直しても、どうも印刷が安定しない…。その原因は、目に見えないベッドの「うねり」です。
手動レベリングの限界を知ろう
手動でベッドの四隅を調整しても、印刷が安定しないのはなぜでしょう?
3Dプリンターのベッドは、熱が加わったり、ネジで固定されたりすることで、どんなに高価なものでも目に見えない「うねり」や「傾き」を持っています。手動レベリングでは、ベッドの四隅を揃えることしかできませんが、この中央の小さいうねりには全く対応できません。
その結果、ノズルとベッドの隙間(Zハイト)が場所によってバラバラになり、フィラメントが均一に定着せず、定着ムラが起きて剥がれちゃうんです。
Bed Meshの役割:歪みを補正する「地図」と「自動運転」
Bed Meshは、この問題をソフトウェアの力で解決します。
- 「歪みの地図」を作る: BLTouchを使ってベッドの何十カ所もの高さを測り、「どこがどれくらい凹んでいるか」という凹凸の「地図」(メッシュ)を作ります。
- 「自動運転」で補正する: 印刷中、この地図を見ながらプリンターがZ軸を自動で上下に微調整します。
この補正のおかげで、ノズルとベッドの距離が常に一定になり、高さの問題による初層剥がれを根本から解決できます。
初層剥がれをなくす!今すべき3ステップ
Bed Meshの仕組みはある程度わかったけど、「じゃあ、具体的に何をすればいいの?」と思いますよね。
初層剥がれを最短で解決するにはたったの3つです。これらがBed Meshによる「補正」を最大限に引き出すカギとなります!
- 手動でベッドレベリング:Bed Meshを活かすための「平均ライン」を正確に決めます。
- Zオフセットの完璧な微調整:必ず印刷温度でベッドの「熱変形」を測ります。
- 初層 0% の設定:冷却ファンが定着を妨げるメカニズムを断ち切る。
では、順番に見ていきましょう!
ステップ1:ある程度、手動でベッドレベリング
まずは手動でベッドレベリングでベッドが「水平」なのかを大雑把に確認します。次に初層の定着に最も効果を発揮する「設定」をKlipper設定ファイルに導入しましょう。
1-1. 最重要!測定は「ホットメッシュ」で始める
Bed Meshの精度は、測定時のベッドの状態で決まります。金属は温まると膨張して形が変わる(熱変形)ので、冷たいときに測ってもダメです!
- ノズルとベッドを、印刷に使う温度まで完全に予熱し、最低5分間温度が安定するのを待ってから測定を開始してください。これがホットメッシュです。
1-2. ベッドのノブを回して大まかな水平を取る!(再確認)
まずこの段階である程度、水平が出ているかの再確認をして、真ん中→四隅→真ん中の順番で紙の厚み(約0.1mm)になるように合わせます。
注意: ベッドが高温になっているのでやけどしないように!
1-3. Bed Meshの土台:BLTouchの役割
ベッドレベリングの精度は、BLTouchがブレずに正確に測れることが大前提です。測定前に以下の2点をチェック!
- プローブの剛性と清潔さ: プローブのピンがグラグラしたり、ゴミが付いていたりすると、測定値がバラバラ(ノイズ)になります。ブラケットのネジを増し締めし、プローブ先端をIPAなどで清掃してください。
- オフセット値の正確性: BLTouchの取り付け位置(x_offset と y_offset)が物理的な距離と合っているか確認しましょう。これがズレると、ベッドの隅まで補正できません。
BLTouch設定の核:ノズルとプローブのオフセット調整
BLTouchはノズルの近くに取り付けるセンサーで、ベッド表面の高さを検出します。設定のキモは「オフセット値」です。これは、「ノズルの先端から見て、BLTouchのセンサーの先端がどこにあるか」という相対的な距離(mm)です。
#例:オフセット値
[bltouch]
x_offset: -40 # ノズルより左に40mm
y_offset: -10 # ノズルより手前に10mm- x_offset / y_offset: ノズルから見たBLTouchの相対位置(mm)。
- 符号に注意! マイナス(-)は「左(X-)」や「手前(Y-)」を意味します。符号を間違えるとプローブが範囲外へ動き「Move out of range」エラーの原因になります。
💡 初期設定がまだの方へ: Zオフセットの初期設定と測定手順は、別記事の**【失敗しない!BLTouch導入ガイド】**で詳しく解説しています。初期値を設定してから、この微調整に進んでください。
1-4. 初層安定のための推奨設定リストを導入!(コピペでOK)
printer.cfg の [bed_mesh] セクションに、以下の設定をコピペして、Bed Meshを有効化しましょう。
#例
[bed_mesh]
probe_count: 5, 5
algorithm: bicubic
mesh_min: 45, 15
mesh_max: 190, 220
fade_start: 1
fade_end: 10
horizontal_move_z: 8注意: 数値はご自身の3Dプリンターに合う数値に変更してください。
💡 もっと知りたい方へ: 「なぜこの数値がいいの?」「bicubicってどういう仕組み?」など、設定値の詳しい解説や、アルゴリズムの技術的な仕組みについて深く知りたい方は、専門記事**[Klipper Bed Mesh徹底解剖:設定・精度向上・運用マクロの完全ガイド]**をご覧ください。
ステップ2:Bed Meshを実行し、「Zオフセット」を微調整する
設定が終わったら、いよいよBed Meshを実行し、ノズルとベッドの理想の距離を見つけましょう!
2-1. ホットメッシュの実行と保存
温度が安定した後、以下の手順で測定と保存を行います。
- 実行:
BED_MESH_CALIBRATEコマンドを実行して測定を開始します。 - 保存: 測定が完了したら、
BED_MESH_PROFILE save=defaultコマンドで測定結果を保存します。
ホットメッシュとは: 印刷に使う温度までベッドを加熱して安定させた状態で行うBed Mesh測定のことです。
2-2. 初層成功の鍵:「Zオフセット」の微調整手順
Bed Meshが歪みを補正した後も、ノズルとベッド全体の「平均的な高さ」が完璧でないと、定着は失敗します。この微調整こそが初層成功の鍵です。
コピー用紙(約0.1mm)を使った調整はあくまで基準です。最終的なZオフセットは、実際に印刷物を見て決めます。
- テスト印刷: 小さな四角形などを印刷し、初層がベッドに吐き出される様子を観察します。
- 微調整: Mainsailのコントロール画面で、以下のコマンドを使って調整します。
- 線が離れる/途切れる(ノズルが遠い):
SET_GCODE_OFFSET Z_ADJUST=-0.02のようにマイナスで近づける。 - 線が薄い/ノズルが削る(ノズルが近すぎる):
SET_GCODE_OFFSET Z_ADJUST=+0.02のようにプラスで遠ざける。
- 線が離れる/途切れる(ノズルが遠い):
- ゴール: 吐き出されたフィラメントの横線が、わずかに潰れて隣の線とピタッとくっついている状態がゴールです。
- 保存: 調整が終わったら、必ず
SAVE_CONFIGでKlipperに保存します。
ステップ3:冷却ファンが定着を妨げるのを防ぐ! 初層 0% の設定
ステップ1と2を経て、Bed Meshで「高さ」の課題を完全にクリアし、Zオフセットも精密に調整しました。理論上、定着は完璧なはずです。しかし、なぜかまだ、初層が剥がれるという現象が起こることがあります。
その原因は、エクストルーダーに付いている「冷却ファン」にあるかもしれません。
3-1. 冷却ファンが定着を妨げるメカニズム
フィラメント(特にABSなど)は、ノズルから熱でドロドロの状態で出てきます。このフィラメントがベッドに「密着」するためには、熱いうちにベッドの表面にピタッと押し付けられている状態が必要です。
しかし、この重要な瞬間に、冷却ファンが全開で回っていると何が起こるでしょうか?
- 急激な冷却: ファンが吹き付けた風で、フィラメントが一瞬で冷やされます。
- 収縮の発生: 冷やされたフィラメントは縮もうとします。
- ベッドからの剥がれ: フィラメントがベッドに貼り付いている力よりも、収縮しようとする力が上回ると、角や端から「ペロっ」と剥がれてしまうのです(これを「反り」や「ワープ」と呼びます)。
ファンは造形物を固めるためには必要ですが、初層定着に関しては「早すぎる冷却」が失敗の原因になってしまうのです。
3-2. 初層定着のための「冷却 0% ルール」
この早すぎる冷却を止めるためのルールはシンプルです。
「初層の印刷が完了するまでは、冷却ファンを一切回さない」
初層が完全にベッドに密着し、次の層を積み上げる安全な高さ(通常 1mm∼2mm 程度)に達するまでは、フィラメントを熱い状態で優しくベッドに置いておくことが成功の秘訣です。
3-3. スライサーでの設定方法(Cura/PrusaSlicer)
あなたが使っているスライサー(造形設定ソフト)で、この重要な設定を「0%」に変更しましょう。
| スライサー | 設定項目 | 推奨値 |
| Cura | 冷却 → 初期レイヤーのファン速度 | 0% |
| PrusaSlicer / OrcaSlicer | フィラメント設定 → 冷却 → 初層のファン速度 | 0 |
この設定により、プリンターは初層を印刷している間、ファンを完全に停止します。
そして、スライサー設定で、2層目または3層目から稼働させるようにしましょう。自動的にファンを回し始め、造形物の品質を上げてくれます。
まとめ:今日すべき4つの行動
このステップを全て実行すれば、初層剥がれの「高さの問題」は解決するはずです!
- ホットメッシュを実行する(Bed Mesh設定をコピペし、温めてから BED_MESH_CALIBRATE)。
- Zオフセットをテスト印刷で微調整し、**SAVE_CONFIG**で保存する。
- 保存したメッシュを開始Gコードに組み込み、時短運用を開始する。
これでも剥がれるなら…次のステップへ!
Bed MeshとZオフセットで「高さ」を完璧にしたのに、まだ定着が安定しない場合は、原因は「熱、材料、速度」といった「フィラメントの定着力」そのものにあります。
これはBed Meshでは解決できない別の問題です。次のステップとして、定着力に焦点を当てたこちらの記事に進んでください。
👉 【もう失敗しない!】3Dプリンターの「フィラメント定着不良」完全トラブルシューティング
Bed Meshをマスターして、フィラメントの無駄遣いをやめましょう!

