造形物のウネウネを解消!VFA対策で3Dプリント品質を劇的に改善

3Dプリンターを使っていると、「もっと速くプリントしたい!」と誰もが思いますよね。でも、「スピードを上げると、どうしてか品質が落ちるんだよな…」という悩みは尽きません。

特に、スピードに伴って造形物の側面に現れる微細な縦のウネウネ(波打ち)や周期的な縞模様に、頭を抱えていませんか?インプットシェイパーを入れても、微細な縦線だけは消えてくれない、という投稿をよく見かけます。

実は、このしつこい縦縞の原因は、単純な振動ではなく、「VFA(Vertical Fine Artifacts)」、すなわち垂直ファインアーティファクトと呼ばれる現象です。VFAは振動ではなく、ステッピングモーターの制御に由来する「周期ムラ」なんです。

この記事では、VFAの原因とOrcaSlicerを使って最適速度を探る方法、そしてKlipperファームウェアで電流設定を最適化し、滑らかな仕上がりを実現する具体的な手順を徹底解説します。

もう、何度もテストプリントを繰り返したり、経験と勘に頼ったりする必要はありません!

この記事を最後まで読んでいただければ、あなたは以下の問題を解決し、ワンランク上のプリント体験を手に入れられます。

  1. 縦縞(VFA)の正体:なぜ振動対策では消えないのか、その根本原因を一緒に理解します。
  2. OrcaSlicerの秘密の力:テストモデルから「品質を犠牲にしない限界速度」を正確に読み解いて、計算で導き出す方法をわかりやすく解説します。
  3. Klipperによる電流設定の最適化:ステッピングモーターの制御に由来する「周期ムラ」を安定させるわかりやすく解説します。

VFAとは?細かい縦縞の正体

VFAは造形物の垂直な面に現れる非常に細かく、周期の短い縦方向の「うねり模様」です。

表面に周期的な「うねり模様」が出る現象

VFAが厄介なのは、その模様が非常に微細であるため、一見するとプリントヘッドの物理的な振動(リンギング)や、フレームの揺れ(ゴースティング)と混同されやすい点です。しかし、その根本原因は機械的な振動ではなく、電子制御側にあります。

項目リンギング/ゴースティングVFA(垂直ファインアーティファクト)
原因加速・減速時の物理的な振動モーター制御(電流・トルク)の周期的な変動
現れる場所主に特徴的な構造の直後垂直面全体にわたり均一に
周期比較的長く、目視しやすい非常に短く、モーターのステップ角に関連
対策インプットシェイパー、機械的な剛性強化速度調整モーター電流調整、ドライバ設定

振動ではなくモーターのトルク変動が原因

VFAは、ステッピングモーターが回転する際に発生するトルク(回転力)のわずかな変動です。この変動が、ベルトやギアを通じてプリントヘッドの動きに伝わり、層の積層位置に微妙な周期的なズレを生み出します。

特に、一定の速度で長時間プリントが続くと、この周期的なトルクのズレが積層され、視覚的に目立つ「縦縞」となってしまうのです。

主に一定速度で発生、速度域をずらすと改善する特徴

VFAは、モーターの共振周波数に当たる特定の速度域で特に悪化します。逆に言えば、その速度域から少しずらしてプリントするだけで、VFAが劇的に改善するという特徴があります。

したがって、VFA対策の鍵は、「どの速度が共振域に当たるのか」を正確に特定し、造形品質が崩れない最大の安全速度を見つけ出すことです。

このプロセスを最も効率的に行うために、OrcaSlicerを使った「最適速度を探るキャリブレーション」が最も有効な対策となります。

VFAが発生する仕組み

VFAを深く理解するために、その発生源であるステッピングモーターの制御に焦点を当ててみましょう。

ステッピングモーターの「マイクロステップ誤差」

一般的な3Dプリンターのステッピングモーターは 1.8度/ステップ(200ステップで360度)ですが、実際はドライバが「マイクロステップ」という技術を使い、1ステップをさらに細かく分割して滑らかに動かしています(例:1/16 や 1/256)。

しかし、このマイクロステップでモーターに流す電流の波形が完全な正弦波を描くことは難しく、特にトルクが弱い部分や、電流の切り替えタイミングで、モーター軸の目標位置と実際の回転位置との間にわずかな誤差(マイクロステップ誤差)が発生します。

この誤差がベルトやギアの周期と組み合わさって、VFAとして表面に現れます。

電流波形や共振の影響で、1ステップごとに微妙な力のズレ

モーターのトルクは、内部のコイルに流れる電流によって決まります。この電流波形がノイズを拾ったり、モーターの固有の共振周波数と特定のプリント速度が一致したりすると、トルクのムラが大きくなります。

高性能なモータードライバ(TMC2208/2209など)は、このノイズやムラを抑える「StealthChop」や「SpreadCycle」といったモードを持っていますが、これらドライバの設定や、モーターに流す電流値(run_current)によってもVFAの出方は大きく変化します。

👉 Klipperの「run_current」「hold_current」のバランスも関係あり

Klipperファームウェアを使用している場合、VFA対策として特に重要になるのが、モーター設定ブロック(例:[tmc2209 extruder][tmc2209 stepper_x])内の電流設定です。

  • run_current: モーターが実際に動いている間に流れる電流。トルク(パワー)と発熱に直結します。
  • hold_current: モーターが停止している間に流れる電流。主に位置保持力に関わります。

run_current が高すぎるとノイズや発熱が増え、低すぎるとトルク不足でステップ落ちの原因になります。VFAを減らすには、この電流値をモーターとドライバが最も安定して動作するスイートスポットに調整する必要があります。

OrcaSlicerを活用!VFAを避ける「最適速度」の見つけ方

いよいよOrcaSlicerの力を使って「最高の速度」を見つけ出します。

VFAテスト(スピードテスト)の実行手順

  1. テストモデルの生成: OrcaSlicerのメニューから「Calibration(キャリブレーション)」→「More(その他)」→「VFA Test」を選んでください。
  2. パラメータ設定:
    • 開始速度: 普段プリントする速度の下限(例:40mm/s)。
    • 終了速度: 試したい最高速度(例:150mm/s)。
    • インクリメント(ノッチ数): 速度のステップ幅(例:10mm/s)。
  3. プリントと評価: モデルをプリントしたら、ノッチ数を見ながらプリントタワーを明るい光の下で斜めに持ち、VFAによる周期的な「縦縞」が最も目立たず、表面が滑らかに見えるセクションを見つけます。

最適速度の計算と設定

このテストで重要なのは、「いつから品質が崩れ始めたか」という境界線を見つけることです。

【例】開始速度 40mm/s、インクリメント 10mm/s で、ノッチ 11(140mm/s)で品質が低下し始めた場合:

1. 品質が低下し始めた速度の計算

ノッチ 11 の速度は、以下の計算式で求められます。

ノッチの速度=開始速度+(ノッチ番号−1)×インクリメント速度

印刷物を見ながら得られた値を代入します。

  • 開始速度: 40mm/s
  • インクリメント速度: 10mm/s
  • ノッチ番号: 11

この場合

  • ノッチ 11 の速度=40mm/s+(11−1)×10mm/s
  • ノッチ 11 の速度=40mm/s+10×10mm/s
  • ノッチ 11 の速度=40mm/s+100mm/s
  • ノッチ 11 の速度=140mm/s

140mm/s からVFA(ウネウネ)が目立ち始めていることになります。

2. 最適な速度の特定

品質を維持できる最大の速度は、この低下開始速度の 1 つ前の速度(ノッチ 10 の速度)です。

  • 最適な速度=低下開始速度−インクリメント速度
  • 最適な速度=140 mm/s−10 mm/s
  • 最適な速度=130 mm/s

この最適速度 130mm/s を、OrcaSlicerの「プロセス」設定にある「Outer Wall Speed(外壁の速度)」に設定してください。これでVFAを最小限に抑えつつ、最速でプリントできるようになります。

「Outer wall speed」に設定して再テスト

この計算で求めた最適な速度(例:130mm/s)を、OrcaSlicerのプロファイルに適用します。

  • プロセス設定「Speed(速度)」タブにある「Outer wall speed(外壁の速度)」に、この最適速度を設定します。
  • この設定を適用した新しいモデルをプリントし、VFAが解消されたかを確認します。

逆転現象への対処:低速域VFAの発生メカニズムと検証

OrcaSlicerのVFAテストを行った際、「速度を上げるほど綺麗になる」「むしろ低速域(例:20mm/s∼80mm/s)の表面が一番波打っている」という一般論とは逆の結果が出ることがあります。

これは一見不思議ですが、お使いのプリンターが持つ特定の制御特性が原因で起こる、極めて実践的な現象です。

通常のVFAテスト今回の結果(特殊な事例)
品質が「低下し始める」速度を探る品質が「向上し始める」速度を分析する

低速域VFAの主な原因と検証ポイント

低速域でVFAやウネウネが発生する場合、それはモーターの共振だけでなく、モーターのトルク制御そのものが不安定になっているサインです。

  • ① 低速トルクの不安定化(モーター制御由来)
    • 現象と確認ポイント: Klipper設定でTMCドライバがStealthChopモードに入っている場合、低速域でトルクが弱くなり、制御が不安定になる。
    • 対策の方向性: Klipper設定でSpreadCycleモードへの切り替えを検討します。run_currentをわずかに上げて、低速トルクを安定させましょう。
  • ② 流量のミスマッチ(押出量由来)
    • 現象と確認ポイント: 低速(低流量)でプリントすることで、ノズルからフィラメントが必要以上に出過ぎて壁が膨らみ、VFAではなく過剰押出によるムラが出ている可能性がある。
    • 対策の方向性: 流量(Flow Rate)を再度厳密にキャリブレーションしましょう。特に低流量での検証を重視します。

特殊な結果から導き出す最適な速度の選定

今回のテスト(開始 20mm/s、ノッチ 7 の 140mm/s で安定)のように、ノッチ7以降で品質が安定した場合は、以下のように結果を分析・適用してください。

  1. 品質安定開始速度の特定: 品質が安定し始めたノッチ(今回の例では 140mm/s)を特定します。
  2. 安全性の確認: 安定した区間(140mm/s 以降)の中で、リンギングゴースティングが発生していないか確認します。
  3. 最適速度の採用: 品質が安定している区間の中で、最も速い速度(上限)、または中間点を「Outer wall speed」として採用します。(例:140mm/s)

そして、その最適な速度を設定した上で、Klipper側で低速域の電流設定を調整することで、残された低速域のVFAを無くすことが重要になります。

フィラメントごとのテストの重要性

このVFAテストは、フィラメントの粘度や特性によって結果が変わるため、PLA、PETG、ABSなど、フィラメントの材質や銘柄ごとに行ってくださいね。最適な結果を各フィラメントプロファイルに保存しておくと、とても便利ですよ!

Klipper側で安定化を図る設定例

OrcaSlicerで「最適な速度」を設定してもVFAが残る場合、Klipperの設定(特にモーター電流とドライバモード)を見直します。

[tmc2208]/[tmc2209]のcurrent設定例

VFAは電流のムラが原因であるため、モーターの定格トルクの範囲内でrun_currentを調整し、モーターが最も安定する値を探します。

設定項目目的と調整のヒント
run_currentVFAが目立つ軸(通常はX/Y)の電流を±0.05A ずつ微調整します。上げすぎると発熱が増加し、下げすぎるとトルク不足になります。
hold_currentrun_currentの80%程度に設定するのが一般的ですが、run_currentとの比率を変えることでVFAが改善することもあります。
driver_UART_address使用しているTMCドライバのハードウェアアドレスが正しく設定されているか再確認します。

stealthchop_thresholdの見直し

TMCドライバには、「StealthChop(静音モード)」と「SpreadCycle(高トルクモード)」の切り替え速度を設定できます。

[tmc2208 stepper_x]または[tmc2209 stepper_x]
stealthchop_threshold: 999999 ; StealthChopを常に使用 (静音優先)

または

[tmc2208 stepper_x]または[tmc2209 stepper_x]
stealthchop_threshold: 0 ; SpreadCycleを常に使用 (トルク安定優先)

SpreadCycle固定(stealthchop_threshold: 0): 一般的にSpreadCycleモードはトルクが安定し、マイクロステップ誤差が小さくなるため、VFAの対策として有効な場合があります。ただし、モーター音が大きくなります。

StealthChop固定(stealthchop_threshold: 999999): VFAは出やすい傾向がありますが、静音性が格段に向上します。静音性を優先する場合は、OrcaSlicerでの速度調整に全力を注ぎます。

電流を少し上げる/spreadCycle固定でトルクを安定化

VFA対策の経験則として、以下の調整が有効な場合があります。

  1. run_currentを定格ギリギリまでわずかに上げる: トルクを安定させ、外部ノイズの影響を受けにくくします。ただし、モーターとドライバの発熱を注意深く監視してください。
  2. stealthchop_threshold: 0を設定し、SpreadCycleモードに固定する: 多少騒音が増えますが、トルクが安定し、VFAを効果的に抑制できる可能性があります。

このように、stealthchop_threshold:run_currentの値がわかならい場合の目安にもなります

改善が難しい場合の追加対策

上記の設定と速度調整を行ってもVFAが残ってしまう場合は、ハードウェアの微細な要因が絡んでいる可能性があります。

ドライバ冷却・電源品質の見直し

  • ドライバ冷却: TMCドライバが過熱すると、電流制御が不安定になりVFAが悪化します。ドライバにヒートシンクがしっかり密着しているか、ファンによる冷却が十分に行われているか確認します。
  • 電源品質: 電源ユニットからの出力電圧が不安定だと、モータードライバへの給電も不安定になり、VFAの原因となります。高品質な電源を使用しているか、また、配線にノイズが乗っていないか確認します。

ファームウェアのアップデート(TMCドライバ挙動改善)

KlipperやMarlinなどのファームウェアは、モータードライバの挙動を改善するアップデートを定期的に行っています。最新バージョンにアップデートすることで、ドライバの電流波形が最適化され、VFAが改善する可能性があります。

フィラメント特性による影響(柔らかい素材ほどVFAが出やすい)

  • PLA: 比較的硬く、冷えやすいため、VFAの影響を受けにくい傾向があります。
  • TPU/フレキシブルフィラメント: 非常に柔らかいため、エクストルーダーのギアがフィラメントを押す際に、ギアの周期的なムラがより顕著に発生し、VFAが悪化しやすいです。柔らかい素材でVFAが目立つ場合は、押出速度をさらに下げる必要があります。

まとめ:VFAは「速度と電流」で消せる

あなたの造形物をプロの仕上がりに変えるために、以下のチェックリストをぜひ実践してみてください。

  • 【VFAテスト実行】 OrcaSlicerでテストを実施し、外壁のプリント速度の最大安全速度を計算して適用します。
  • モーター電流とドライバモードの最適化

この手順を実践することで、「微細な縦縞」をほぼ解消し、3Dプリントの品質は格段に向上するはずです。ハイスピードで美しい造形を一緒に楽しみましょう!